パッシブ3D用電動フィルタホルダーの製作
パッシブ3D用電動フィルターホルダーの製作
INDEX 1.はじめに |
1.はじめに
デュアルプロジェクターでパッシブ3Dを行うにはプロジェクター側にフィルターが必要です。パッシブ3D方式にもいくつか種類があります。以前、円偏光方式(RealD)を紹介しましたが、その他にもInfitec, Dolby3D等の波長分割方式があります。方式ごとにフィルター大きさ・形状等が異なります。フィルターホルダーも多種のフィルター形状に対応すべく設計してみました。「Stack 5D dual projection system」http://monolith-theater.net/hal/?p=14993
また方式によってはプロジェクター自体の調整やフィルターの有無での映像確認も頻繁に行います。その際、いちいちプロジェクターサイドに足を運んで作業するのも労力を要すので、フィルターホルダーを電動化してみました。有線リモコンに加えて有線LANやiPadからのWi-Fiコントロールも可能な電動フィルターコントロールシステムです。
2.システムの概要と設計
要はDCモーターでフィルターホルダーを左右に動かし、適切な位置で止める装置です。左端の位置ではプロジェクターの光束がフィルターにかからず、右端ではフィルターを通過します。用途としては前者はスタック2D投射モードで2つのプロジェクターから同じ映像を出力します。後者は1つは右目用、1つは左目用の映像を出力し、専用メガネで分離するパッシブ3D投射です。これはRealDやIMAXなど多くの劇場で使われているのと同様の業務用3D投射方式です。一般民生用で採用されているシングルプロジェクターで3Dメガネにシャッターのあるアクティブ方式とは異なる方式です。下に電動フィルターホルダーの動作の様子を動画にしてみました。
制御装置にはモーターコントローラー、通過センサー、IPコントロールが可能なリレーなどを使っています。これらは全て通販で基盤やパーツを購入しオリジナル回路を組んでいます。ケースはアルミとアクリルの自作です。リモコンは有線をプロジェクター側と視聴位置に計2つ、またHTTPプロトコルを受け付けるパーツを用いて、iPadからのWiFiコントロールが可能な仕様に設計してみました。
以下はパーツの紹介と自作の過程です。
3.制御部と駆動部の製作
コントロール基盤や駆動部は以前紹介した自作の木製プロジェクター設置台上部に取り付けています。
「デュアルプロジェクター設置台の自作」 http://monolith-theater.net/hal/?p=12942
「スタック2Dプロジェクターの調整」 http://monolith-theater.net/hal/?p=13190
コントロール部だけ19インチラックとして独立させる事も考えましたが、修正が容易な上部に組みつけています。フィルターホルダーと制御部を一体型として製作しています。自作フィルターホルダー本体は以前、RealD偏光方式で紹介したものと同様です。「デュアルプロジェクター用偏光板」 http://monolith-theater.net/hal/?p=13986 横方向のスライドガイドは、ホームセンターで購入できる引き出し用のレールを上下2本使っています。
4.制御部ケースの製作
基盤などを収納するケースはアルミとアクリルの端材を使いまわして製作しています。プロジェクター設置台に合わせ必要最小限のスペースしか確保していません。基盤上のLEDなど動作確認のためアクリルのカバーをつけています。設置台とは3点で固定しています。
5.DCモーターおよびコントローラー
内部にギアが組み込まれている低回転でもトルクの強いギアードモーターを使っています。TUKASA Elecronic geared motor TG-47-FU-64-KA http://www.motionmart.com/products/pdf/tsukasa/dc_geared_motor_eng.pdf 3mmネジでL字のアルミアングルに固定し、ラックアンドピニオンギアを動かしています。ラックギアはKHK製SR1-300 http://www.khkgears.co.jp/khkweb/search/sunpou.do?indexCode=21&lang=ja です。
DCモーターコントローラーは共立エレショップの製品(DCモーターコントローラー2)を使用しました。DC8.4~27Vの入力で平均3Aの容量を持ち、正転・逆転・ブレーキ・PWM方式の回転数制御が可能です。またそれぞれ引き出し端子を備えています。
http://eleshop.jp/shop/g/g402040/
6.通過センサー
通過センサーはRPEパーツ社の「通過センサー2」 を使用しています。これが結構多機能で面白い製品です。940nmの赤外線を使用した遮断型検出装置で遮断物体検出時に閉・開いずれかのリレー出力ができます。またトリガーモードが3種あり、1レベルトリガ、2.エッジトリガ、3.フリップフロップの中からジャンパスイッチで選択できます。今回はエッジトリガモードを使用しています。これは遮光を検出するとリレーがonとなり更にタイマー設定で自動でoffに復帰するというモードです。DCモーターコントローラーのブレーキ入力に接続しておくと定位置で出力をoffにすることができます。今回の目的にはうってつけでした。電源はDC12Vです。
http://rpe-parts.co.jp/shop/64_2855.html
7.IP Power 9222
ネットワーク経由で電源やリレーをコントロールするキットです。AVIOSYS社 http://www.aviosys.com/index.html の製品でクレストロン等にも利用されているこの種の定番品です。出力と入力形式で多種のバージョンがあります。パーツとして利用すれば非常にコストパフォーマンスの高い作品ができます。家庭用コンセントのネットワークコントロール用途で購入しておいたものですが、今回リレー機能を利用するため流用しました。Webサーバ機能を持っていてHTTPプロトコルを受け付けます。IPアドレスはプライベートを自由に設定でき、またルーター超えも可能な汎用性の高い製品です。Nomal closeとnormal openが4chずつ、計8chリレー出力できます。定格240V/AC, 60V/DC 12A AC/DCと十分すぎるスペックです。秋月でも購入できます。 http://akizukidenshi.com/catalog/g/gK-02328/
左はIP Power 9222, 右はそれに加えて前述した「DCモーターコントローラー2」と「通過センサー2」を自作ケースに実装した様子。
8.箱型有線リモコンの製作
珍しく既製品のケースを使ってみました。ハンドルはタカチ製です。モーメンタリースイッチはモーターコントローラーの引き出し端子に接続、位置情報を示すLEDは板状スイッチを経由しています。(動画参照)リモコンと本体の接続は16芯マルチケーブルとコネクタで自作しています。
9.ラックマウント型有線リモコンの製作
内部は上の箱型有線リモコンと同じです。視聴位置にあるので遠隔操作できます。ミドルアトランチックの19インチブランクパネルを加工しています。http://www.middleatlantic.com/ 本体との接続は箱型と同様マルチケーブルと16ピンコネクタです。
10.iPadによるWi-Fiコントロール
この電動フィルターホルダーはネットワークからアクセスできます。7.で紹介したIP Power 9222を利用しています。上はHTTP接続している様子で、タイマーなど細かいコントロールが可能です。もともと業務用品や家電製品を制御する目的で作られています。またデフォルトGUIから様々なカスタマイズを施したソフトウエアも入手できます。DHCPとプライベートアドレスを正しく設定できれば、iPadからのアクセス即ち無線コントロールもできます。アクセスするにはIDとパスワードが必要です。
11.実際の動作
動作の様子は上に示した動画に記録しています。3分41秒です。手元のリモコンやiPadでコントロールできるのでとても便利です。http://www.youtube.com/watch?v=1FPi0Fb5RFA
12.最後に
国内の市販プロジェクターは全てアクティブ方式ですが、劇場ではパッシブ方式も珍しくありません。パッシブ3D方式にはちらつきがないという大きな長所があります。プロジェクターが2台必要ですが、3Dの美点に加えスタック2Dの美しさも見逃せません。今回の電動化はパッシブの調整を容易にする点に加え、スタック2Dへの切り替えもワンタッチになります。
ただしデュアルプロジェクターの調整は非常に難しく、また市販品もないのでおおむね自作の積み重ねになります。電動フィルターホルダーの製作も簡単ではありませんでしたが、出来てしまうとあまりに便利で、調整のためにはなくてはならないものに感じます。難易度的には自作PCと変わりません。情報収集に多くの時間を要しています。市販品はなくオーダーすれば10万では済まないと思います。海外でも同種の作例はないようです。
動作は安定しています。製作して2ヶ月ほど経過しましたが、誤動作は一切ありません。経費も1万円強と自作ならではのコストパフォーマンスの高さです。
なお今回使用したフィルターは波長分割方式のパッシブ3D用です。シルバースクリーンが必要な偏光方式とは違いホワイトスクリーンで使用できる優れものです。いずれ詳細を掲載する予定です。
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