大型燻製窯の製作
DIY Automatic Smoker |
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Summary | ||||
In this article, I described about DIY smoker. Processing of wood, metal, and a terra-cotta tile etc was done. The DIY electronic circuit which keeps temperature constant was manufactured. A suitable temperature can be maintained in accordance with foods. Very delicious smoked foods can be cooked. |
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Key features | ||||
1.DIY woodwork, goldsmith and electronic works for smoker.(machine for smoked foods) |
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自作大型全自動スモーカー
INDEX 1.はじめに |
1.はじめに
燻製は煙でいぶした、すなわち燻煙した調理食材です。一般に売られているベーコンやスモークサーモンは燻製の代表例です。ここで紹介するのは生の食材から自前で作る燻製です。煙でいぶすためにインドアの調理は不向きで、主にアウトドアで調理します。自宅でよくパーティーを行うため、大型の燻製製造装置すなわち燻製窯を戸外のテラスに自作してみました。アウトドアでは携帯性のよい簡便なものを利用しますが、それらは一般的にスモーカーと呼ばれています。更に今回製作したものは、ピザやパンも作れるピザ窯をオプションとして用意しています。
2.燻製とは
燻製調理は一般的ではないので簡単にまとめておきます。燻製には調理温度で熱燻、温燻、冷燻などに分かれています。熱燻は80度以上で10-60分の短時間、食材の加熱処理も同時に行います。温燻は30-60度程度で数時間から1日、冷燻は30度以下で1日から数週燻煙処理を行います。最も一般的なのは温燻で、食材も肉、魚など適用範囲が広く、手軽に処理できます。ベーコンが代表です。冷燻は煙の温度が低い状態で長時間燻煙する必要があるため技術的に難しくなります。釜の温度が低い必要があり、また生の食材の鮮度を保つため外気温が低い冬に行うのが一般的です。スモークサーモンが代表例です。
燻製を作る装置を燻製窯、スモーカーと呼んでいます。キャンプなどのアウトドアで利用されることが多く、ホームセンターでも組み立て式の小型のものが市販されています。趣味が昂じて大掛かりな燻製小屋を作られている例も在ります。燻煙材はスモークチップとも呼び、サクラ、ナラ、ブナなどを粉砕したチップで、圧縮処理したスモークウッドとして市販されています。木材の種類によって香りの違いを楽しめます。バラのチップを配合してオリジナルチップを使用することもあります。
燻製(ウイキペディア) http://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%87%BB%E8%A3%BD
燻製作り入門(片山三彦) 地球丸 ISBN 4-86067-002-7
3.自作スモーカーの全景
今回製作した燻製窯の全景です。燻製窯の左にピザ・パン窯、右に物置が写っています。すべて自作品です。物置には燻製やバーベキューに使う道具を収納しています。設置場所は自宅のテラス、戸外です。
4.自作スモーカーの構造
今回の燻製窯の外観、用途別の仕様です。燻製窯は上部の燻煙室と下部の燃焼室からなっています。下部の燃焼室では燻煙材や火種を燃やします。吸気孔を最下部に設けていて、燃焼に必要な空気を取り入れます。排気筒は通常は閉じていますが、内部温度や調理の具合に応じて開き、排煙や排気を行います。最上部の温度調整ユニットは自作の電子回路で構成しています。基本は電熱管をコントロールするサーモスタットですが、二つの調整回路を切り替え、100度までの燻製と300度までのピザ、パン窯用のデュアルサーモスタット仕様です。
A:燻製仕様 (~100度)
【熱燻、温燻の場合】
燻煙室と燃焼室を一体として使用します。このとき冷燻用の冷却ダクトは閉じます。下部燃焼室で燻煙材を燃やし、サーモスタットでコントロールされた加熱用電熱管で燻煙室の温度を一定にします。全体の容量が大きいので、燻煙材の燃焼程度では燻煙室の温度は上がりません。電熱管が温度をコントロールします。温度センサーは燻煙室上部と下部に設置しています。
【冷燻の場合】
前述しましたが冷燻は外気温の低い冬季に行います。この場合は窯の燻煙室と燃焼室の間に冷燻用仕切り版を設け、空間を2つに分けます。燻煙は外部の冷燻用燻煙冷却ダクトを通り上部の燻煙室に入ります。また排煙筒を空け、下部吸気孔から外気を十分取り入れます。燻煙が1日など長時間に及ぶため、燻煙材の燃焼による僅かな熱を取るための工夫が必要です。この際熱燻、温燻より多目の燻煙材で多量の煙を出し、排煙筒からの流失を補います。低温で燻煙する冷燻の難しさがここにあります。
B:ピザ、パン窯オプション (100~300度)
200度以上の高温窯として使用することができます。別途製作した金属製のピザ窯を使用します。電熱器と温度センサーをピザ窯に入れます。300度付近の高温に保つ場合は、下部燃焼室で豆炭等の燃焼材を燃やします。ピザ窯の内部温度は高温ですが、燃焼室は100度程度に保たれます。
5.燻製窯の製作
基本骨格はSPF材を使っています。オイルステンを数回塗って耐候性を持たせています。
燻製室と燃焼室のドアの製作風景です。表面材はウエスタンレッドシダーと奢ってみました。他の大部分と同様ですが、窯の内側からアルミ板、耐火ボードと木製合板で三重構造にしています。丸鋸とジグソーで加工できます。ガラスは耐熱ガラスで、寸法指定の通販で入手しています。
燻製窯本体の工作風景です。燃焼室は直接火元と接するため耐火ボードの内面にテラコッタタイルを張り詰めています。テラコッタタイルは丸鋸に専用の砥石を取り付けると直線切断ができます。目地は耐火セメントです。300度に耐えるという基準で素材を選んでいます。
完成後既に3年経過しましたが、燻煙による汚れがあるものの、機能的な不具合は出ていません。雨ざらしですが、強度・耐候性ともに十分です。
6.温度制御装置の製作
温度制御装置のブロックダイアグラムです。電熱管に通電する装置です。サーモスタットは2つ用意し、どちらを使用するか切り替えられるようにしています。温燻では50から80度までを常用し、ピザ・パン窯では100から300度を使用するするため、夫々その間の温度設定が細かく設定できるスケールを使用することができます。通電間隔制御装置は動作的には間歇タイマーです。例えば10秒おきに通電する、30秒おきに通電するなどの変更により、サーモスタットで設定した温度に到達する時間を変えることができます。これは食材の種類によって変更します。温度計はデジタル表示機を使っています。熱電対と呼ばれる非常に正確な温度センサーを装着しています。その先端の位置を燻煙室上部と下部に置き、その差を観察することによってスモーカー全体の断熱・保温効果を検討することができます。また食材の中に刺入すると調理具合を推定することも可能です。
雨滴が直接かかるのを防ぐためアクリルでカバーを作り、トルクヒンジで可動性を持たせています。上部には簡易木製ひさしを作っていますが、建物躯体との接合部はコーキングして、伝い雨水がユニットに浸入するのを防止しています。この構造で3年の間、台風をもなんとかしのいでいるので、対候性も十分です。
実際の動作中の温度制御ユニットと制御パネルの仕様図です。右端は電源スイッチです。コンセントに電源コードを差し込んだ段階で下のスタンバイLEDが点灯します。主電源を入れると上のLEDが点灯します。低温用、高温用サーモ切り替えスイッチでサーモスタットを切り替えます。動作中のサーモ動作LEDと同じ色に点灯します。通電間隔制御はOFF-LO-無段階-HIが調節できます。LEDはここに電源が来ているかどうかの電源LEDと通電時のLEDを設けています。通電動作頻度が明示的にわかります。
温度制御ユニット製作中の写真です。全面パネルは丸鋸とジグソー、ルーター、ドリル等を使って加工しています。デジタル表示計、サーモスタット、熱電対、電熱管などは坂口電熱から購入しています。温度管理に必要な組み込みパーツに困る事のないショップです。 http://sakaguchi-dennetsu.co.jp/
7.ピザ窯オプションの製作
ピザ・パン窯を別途製作しています。アルミ3mmの金工です。全面は耐熱ガラスを設けています。外側には耐火ボードをはっています。300度以上の温度が出せます。
製作過程です。上下の二つのユニットからなっています。上部は窯、下部は電熱部です。燻製窯の電熱管を挿入し熱源とします。温度の上昇が十分でない場合は豆炭を入れます。
上部の窯ユニットは単独で他の火種と組み合わせて使うことができます。写真左はキャンプ用品のコンロ、右はバーベキュー台(自作)備え付けのコンロと組み合わせた例です。豆炭を使うと煤も出ず綺麗に加熱できます。上部から燻製窯の熱電対を挿入し温度管理も可能です。
ピザ・パン窯を使った調理の例です。300度加熱のオーブンといってよく、いろんな調理が可能です。焼き物だけでなく、蒸し物などバーベキューパーティーで料理に華を添えます。作る過程を目の前で楽しめるので評判も上々です。バーベキューコンロ、燻製窯、ピザ・パン窯、オーブンが揃っているので、メンバーに材料を持ち寄ってもらうと、時間も忘れて盛り上がります。キャンプでいうとコンロとダッジオーブンの組み合わせに似ています。因みにダッジオーブンでも燻製は可能です。
8.燻製例
以下はこの燻製窯を使った調理の例です。いろんな素材で数限りなく燻煙してみました。素材はそのまま味付け処理せず燻煙することも少なくありませんが、前処理するのが一般的です。魚や肉の場合、新鮮さが重要です。味付や事前事後の乾燥の仕方によっても風合いが異なります。窯に入れてからは温度の上げ方、設定温度、燻煙の時間や色づけなど個人で好みに合わせてよいと思います。そのレシピは無限です。 レシピについては「 燻製作り入門(片山三彦) 地球丸 ISBN 4-86067-002-7」 が大いに参考になります。機会があれば詳細なレシピ集を掲載してみます。
参考レシピ:ベーコン。以下は数人で酒の肴にする分量です。
【材料】
●豚バラブロック1kg,
●スパイス/ 塩35g, 三温糖10g、黒コショウ10g、オールスパイス:小さじ1、セージ:小さじ1、シナモン:小さじ1/2、ナツメグ:小さじ1/2、
●ローレル6枚。
【前処理】
①豚バラブロック水洗いしてペーパーで水分を取る。
②肉刺で満遍なく刺し、スパイスを混ぜ肉に刷り込む。
③ローレルをちぎり肉と混ぜジップロックに封入。
④冷蔵庫で2-5日熟成。1回/日ひっくり返す。
⑤熟成後、流水で塩抜き数時間。端を切り焼いてみて塩加減を試食。薄口がよし。
⑥風乾6時間。表面がさらさらになるまで。
【燻煙】スモーカー処理
⑦温熱乾燥 65度1時間
⑧温燻(サクラスモークウッド) 75度4時間
9.最後に
このブログはホームシアターがテーマですが、アプローチの基本は自作です。今回の燻製窯はホームシアターと何の関係もないように思えますが、人生を楽しむというテーマで共通しています。家族で映画を楽しみ、時には仲間で集まり、パーティーで大いに食し、映画を観て、そして飲んで大いに語る。そのための自作です。
今回の自作は工作方法が多岐にわたっています。木工を基本として金工、石工、アクリル工作や電子工作、また左官作業も入っています。それでいて使用した電動工具は丸鋸、ジグソー、電動ドライバー、ルーターなど基本的なものばかりです。しかし大型であることと作業が多岐に渡ったため、一日数時間で約1ヶ月かかっています。作業時間にもまして部材や材料の調査・調達および試行錯誤でも相当時間を費やしました。完成後も動作具合に応じて数回改良を加えています。費用は端材などを利用したため5万程度で済んでいます。最も難しかったのは温度制御システムの設計でした。最終的な完成度はかなり高いと思います。
Web上にはコアな趣味人による様々な自作スモーカーも紹介されています。市販のものも携帯用の小型から業務用まで様々です。以下に参考になりそうなリンクを掲載しておきます。
Smoke-dried machine (アトリエノブのスモーカー) http://outdoor.geocities.jp/kurumano_tabi/smoker.html
男が作る燻製 (Kachispo) http://www.kachispo.com/k/328/index.html
新富士バーナー「いぶし処」 http://www.shinfuji.co.jp/contents/products/ibushi/index.html
ユニフレーム smoker/oven http://www.uniflame.co.jp/products/Smoker/products_list.htm
キャプテンスタッグ (スモーカー&チップ) http://www.captainstag.net/category_330.html
進誠産業 (ようこそ燻製の世界へ) http://www.sinsei-s.co.jp/
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この記事は2012-11-12に更新しています。初稿に加えた重要な変更箇所は赤で記載。