ESOTERIC P-05
Esotericはオーディオ高級機を出し続けている数少ない国内メーカーの一つです。起業当初のP1,D1というセットは今でも我が家の棚の奥深くに眠っています。CD/SACDトランスポートのP-05を聴く機会があり、クロックジェネレーターG-0Rbのスレーブとした場合の印象をまとめてみました。
1.外観
2.システムクロック設定
3.ワードクロックとAES信号の経路
4.P-05のデジタル信号設定
5.P-05のDual wire AES
6.P-05の音質
7.最後に
関連記事
iCLOCK : Rubidium Redundant Reference Audio Maser Clock
Rubidium Frequency Standard: LPRORB-02
10MHz ルビジウム発振器
UDT2010: part3 (Lynx AES16e-SRC)
tc electronic Digital Konnekt x32 (PCオーディオ Part1)
1.外観
新たなターンテーブルのメカニズム(VRDS-NEO VMK-5)を搭載した20周年記念モデルです。高級機はデザインや質感が重要ですが、エソテリックらしい見事な仕上がりです。筐体はずっしり重く剛性も十分で、例によって丁寧な作りの脚が3つ、開閉動作やボタンの押下感も重厚です。お約束の天板の銘とメカの一部が覗ける小窓が洒落ています。他の一連の製品と統一感の取れたデザインです。
背面はトランスポートらしくすっきりしています。出力は二つのAES, 同軸、iLINK, そしてクロック入力があります。コンシューマーオーディオではめったにありませんが、プロオーディオでは対応することも多いdual wire AESとしても機能するようです。民生用CD機器としては凝っています。
2.システムクロック設定
G-0Rbのクロック分配
トランスポートの実力を存分に発揮させるべく、マスタークロックを同社のG-0Rbに設定してみました。既存のシステムは組み替える事無く、ハウスシンクのマスターをG-0Rbとし、MUTECのiCLOCKをスレーブとして、そこで生成されたワードクロックを各デジタル機器に分配しています。
Esoteric固有の100kHzユニバーサルクロック
ただしG-0RbにはESOTERIC固有の100kHzユニバーサルクロックが出力できるので、これをP-05に直接入力しています。ルビジウムの発振周波数10MHzに対する単純な分周比を持っている合理的端子ですが、他のメーカーのデジタル機器は同期できません。
3.ワードクロックとAES信号の経路
上図は今回視聴したクロックラインとAESデジタルラインの概要です。既存のシアター7.1チャンネルのデジタルシステムにP-05とG-0Rbを組み込み2ch分だけ利用してピュアオーディオシステムを構成しています。赤がクロックライン、青がAESデジタル信号の経路です。プリアンプは通さないデジタルオーディオです。
AESデジタル信号(青)
CDトランスポートのAES信号(CD source1)は、デジタルミキサー(Lynx AES16eSRC)を経て、デジタルチャンネルデバイダー(DriveRAck4800)の処理後にDAコンバーター(Lynx AURORA16)に入力。音質比較対象としたPCのWAVファイルでの再生(CD souce2)は、ASIOダイレクトモニタリングとしています。
ワードクロック(赤)
ワードクロックはG-0Rbをマスターとして既存のジェネレータMUTEC iCLOCKをスレーブにしています。P-05、G-0Rb間はESOTERIC固有の100kHzユニバーサルシンクです。
左はG-0Rbのクロック表示。ユニバーサルクロックは100kHz, 他の端子は192kHzとしています。右はMUTEC iCLOCKの液晶表示。iCLOCKは通常はマスタークロックジェネレーターとして使用していますが、今回はG-0Rbの192kHzスレーブ動作で44.1kHzと48kHz系のクロックを生成するクロックシンセサイザー、クロックディストリビューターとして機能させています。写真はG-0Rbからの192kHz入力でロックしている様子です。
4.P-05のデジタル信号設定
P-05のメニュー表示です。44.1kHzを176.4kHzまでアップサンプリングした出力ができます。外部クロックのスレーブ設定をオンに、デジタルAES出力はdualとしています。電源投入時に「word 100」とユニバーサル100kHzに同期している様子が表示されます。
5.P-05のDual wire AES
P-05のAES出力はsingleとdualの設定が可能です。Singleが一般的で、AESライン1本で2ch分の信号を送ります。Dualは1本で1chの信号を伝送するものでステレオだと2本必要です。この場合、クロックは半分になります。たとえば176.4kHz信号を出力する場合、single AESでのクロックは176.4ですが、dual AESでの出力ラインのクロックは88.2kHzとなります。この方式はプロオーディオで用いられるもので、業務機では珍しくありません。AES1本あたりの帯域に余裕が出るのがメリットで、音質的にはdualのほうが有利です。ただし配線が倍になり煩雑であまり用いられるものではなく、トランスミッタに制限のあった時代に考案されたレガシーな規格として取り扱われる事もあります。
上図はLynx AES16eSRCがP-05の信号を認識している様子です。Single wireとdual wire AESの違いが良く判ります。AES16eSRCは、クロック入出力のあるスタジオ用AESカードです。サンプリングレートコンバーターが付いているのでクロックはあまり気を使う必要はありませんが、念のためsingleとdualではクロックジェネレーターの周波数を変えて同期させています。
Lynx Studio Technology AES16e-SRC
アルミと銅を用いた3重シールド自作PCケース。Lynx Studio Technology のAES16e SRCはPCI express x1で動作しますが、ここではP6T Deluxe V2のx6スロットにセットアップしています。実際のPCI動作帯域は62.5MHz。入出力はAESのみの16ch。オーディオインターフェース、ミキサー、デジタルパッチベイなどの多彩な機能を持った高音質のスタジオ仕様で、クロック入出力やサンプリングレートコンバーターも付いています。システムボリュームに関してはこちらの記事を参照。
6.P-05の音質
さて音質です。最も印象が良かったのは88.2kHzのDual wire AESでした。とても伸びのある綺麗な中高域です。中域の肉声がリアルな倍音成分を伴って聞こえます。従来のEsotericの硬質なイメージが和らいでいます。柔らかくアナログ的な音です。気配感のある静寂な音場はクロックの精度によるものかもしれません。低域もよく出ています。愛聴版では、注意して聞かないと判らなかったミキシングのトラックの編集箇所までよくわかり、解像感も十分です。
7.最後に
非常に良く練られた音です。モノとしての品格も十分で、なにより手軽にいい音を楽しめます。今回はSACDに関しては触れませんでしたが、やはりD-05とペアで所有するのがお洒落な気がします。写真のようなマニアックなラックの中ではなく、リビングにさりげなく置いておきたいプレーヤーです。
この記事は2010-05-27に更新しています。初稿に加えた重要な変更箇所は赤で記載。